大量絶滅
大量絶滅(たいりょうぜつめつ)とは、肌荒れを解決するために行われる定期的なスキンケアである。
先カンブリア時代[編集]
年月とは残酷なものである。肌というものは子供時代にはあれほど瑞々しく美しいというのに、年齢を経るにつれて見る影もないほどボソボソザラザラしたそれへと変貌していく。いかに前向きな性格をした女性であろうとも、それを好意的に受け止める理由などない。肌の美しさは女性にとって決して譲れない一線であり、また譲るべきでもない。例え幾つになったとしても。
この世に生を受けてすぐ、幼年期の彼女の肌は燃え上がるように赤く美しいものであった。幾つかの齢を数え、若年期に入った際には肌は透き通るような灰色のそれに変わったが、その静謐さもまたあどけない彼女の秘められた美しさを見せつけるかのようであった。しかし、後に彼女を悩ますこととなる小さきもの達が彼女の肌に住み着いたのもこの頃であった。
彼女はまだ若く、新陳代謝の豊かな肌は小さきもの達の繁殖を防いでいたため、このちょっとした肌荒れが己を延々と悩ます大問題になるとは思っていなかった。しかし更に齢を数えアラサーに近づくと、彼女の肌の防衛機構も徐々に弱まっていく。はじめ現れたのは、緑色の小さなシミであった。最初はほんの些細なシミでしかなかったそれを気にせずに放っておいたのが間違いであり、気付いた時には肌のかなりの面を覆うほどに拡大していた緑色のシミに、彼女は慌てふためき、いよいよ本格的なスキンケアを行う必要に迫られたのであった。

スノーボールアース[編集]
初めて緑のシミが大繁殖をする前まで、彼女の肌周りは赤くしっとりとした艶やかな雰囲気に包まれていたのに、段々とその艶やかな雰囲気は薄くなり、どことなくガサガサとしたそれへと変わりつつあった。
そこで彼女は思い切って、当時流行っていた表皮全体ホワイトパックによって、肌荒れの原因であった緑のシミを根絶しようと試みた。それをしばらく続けていると、どうも緑のシミは減ったような気がする。気を良くした彼女がホワイトパックを外すと、そこには綺麗さっぱりとした艶やかな肌が戻ってきたではないか。彼女は大喜びで若返った自分の肌を存分に触って、このシミがない期間が少しでも長く続くように祈ったのだった。
それからまた長く時間が経つと、緑のシミは何度も再発するようになった。彼女はその度にこのホワイトパックをそこそこに繰り返し、地道にシミを取り除くことで綺麗な肌を取り戻そうとした。事実、ホワイトパックの直後は明らかに緑のシミは消えてなくなっており、効果が絶大なことは明らかであった。
しかし、何度も繰り返すにつれ、ホワイトパックを終えてから緑のシミが再発するまでの時間は目に見えて短くなっており、彼女も段々と焦り始めていた。
エディアカラ生物群[編集]
そして悪夢が現実のものとなったのは、彼女がアラフォーを過ぎる頃であった。
表皮ホワイトパックの度に全滅に追い込まれていた筈の緑のシミは、幾度にも渡る繁殖を経て彼女の表皮の状態を作り変えていた。ほんのりと赤かった彼女の空気は既にガサガサとした無残なそれへと変えられており、それを好物とする小さなもの達が彼女の皮膚には住み着いてしまっていたのだった。一縷の望みをかけて再度、長時間に渡る全表皮ホワイトパックを試すことで小さきもの達を念入りに排除した彼女であったが、その後に待っていたのは予想していた中でも最悪の結末であった。小さきもの達はホワイトパックを外した瞬間爆発的に増殖を始め、今までに無かった大繁殖を一瞬のうちに遂げてしまったのである。最早ホワイトパック療法が彼らに乗り越えられ、克服されてしまっていることは誰が見ても明らかであった。仮にまた同じことをしても、恐らくすぐに肌はボロボロの状態に戻されてしまうだろう。別の美容法を考えて、この忌々しい肌荒れをなんとかしなければならない。
彼女の戦いが始まる。
顕生代[編集]
オルドビス紀末(O-S境界)[編集]
とはいえホワイトパックにかなりの美白効果があることは明瞭であり、肌荒れの再発に悩みつつも彼女は定期的なホワイトパックは続けていた。しかし抜本的な解決にならないのも明らかであり、困っていた彼女に救いの手が差し伸べられる。ご近所さんの通夜・告別式に参加した折、故人からの餞別として美白用の化粧品を貰ったのである。これをホワイトパックついでに併用して試してみたところ、ホワイトパック単体よりも効果がある薬品であり、小さきもの達によるシミが明らかに減退したのであった。
その効果に感動した彼女は是非リピーターになろうと考えたものの、どうもこの化粧品はなかなか市場に流通しない代物であり、スキンケアをこれに頼るには苦しいものであることが判明してしまう。
デボン紀後期(F-F境界)[編集]
落胆した彼女のもとに、新しいタイプの肌荒れ対策法の情報が入ってくる。それは肌の温度を少し上げることで肌表面付近の血流の流れを抑え、肌の微生物へ栄養を与えず飢餓させるという、それまで彼女がずっと行っていたホワイトパックとは真逆の方法であった。
半信半疑に思いながらも身体を温めてみると、表面の水分が飛び、結露して肌を流れ始めた。すると栄養分が集まった表皮で緑のシミが異常発達し、肌の栄養を食べ尽くしてしまうことで他の小さきもの達が軒並み死滅したのであった。しかし、確かに斬新な肌荒れ対策ではあったが、問題の緑のシミに関しては減るどころか増えるだけであり、やはり民間療法ではどうにもならないのかという結論に至るのみであった。とはいえ、緑のシミ以外のものについては確かに最高の効果であったため、一応心の片隅に留めておくことにした。
ペルム紀末(P-T境界)[編集]
これも駄目、あれも駄目……、なんともいい美容法が見つからないことに苛立っていたのだろう。それまでなるべく我慢していた、ずっと溜まっていた大きなニキビを潰すという禁じ手を彼女は実行することにした。それは他の無数のニキビとは違い、たまにくる非常に大きな腫物のようなもので、彼女にとっては見た目を大きく損なう怨敵でもあった。だが、前にこのニキビが爆発した時に出てきたニキビ脂と出血は、ほとんど肌全体に広がるようなとんでもない衝撃ではなかったか。ニキビを潰すとよくないというのは美容の常識ではあるが、もし仮にこの忌々しい肌荒れをまとめて吹き飛ばせるのであれば、後に残るニキビ痕くらいはこの際甘んじて受け入れてもいいのではないか?
彼女は意を決して、溜まっていたニキビをぷちっと潰すと、おお、ずっと毛穴に詰まっていたニキビが大爆発を起こし、その爆発は周囲の微生物を消し飛ばし、また吹きあがったニキビ脂と出血は瞬く間に肌荒れの原因となる微生物たちを滅ぼし、肌が元の綺麗な姿に戻ったではないか。素晴らしい、ニキビを潰したら美容に悪いなんて嘘っぱちだったんだ……と彼女が思ったのも束の間、また暫く経つと微生物は大量に繁殖を始めてしまい、そこには大きなニキビ痕のみが残る状態になってしまった。落胆した彼女はしばらく大きなニキビは潰さないようにしようと心を入れ直し、次の美容法を探し始める。
三畳紀末(T-J境界)[編集]
やはりニキビは力任せに潰すべきではない。そう考えた彼女は、ニキビ用オイルでもって片頬に集まってできていた小規模ニキビ群をケアすることで、ニキビ痕を残さず処理することにした。これが功を奏してかニキビはほとんど目立たず落ち着き、嬉しいことにニキビが治る際に噴出したニキビ脂が小さきもの達をある程度減らしてくれたのであった。やはり余計な刺激をするものではない。彼女はそう心に決めながらも、やはり解決しない肌荒れに心を悩ませていく。
白亜紀末(K-Pg境界)[編集]
いよいよもって肌荒れが収まらないことに業を煮やした彼女は、とうとうこの段階に至って外部の医師の治療を受けることにした。頬の一点から表皮を伝播するスキンケア治療を受け、肌を綺麗にした彼女はそこで医師からの説明を聞く。何となく彼女自身も察していたことではあったが、例え肌表面の微生物たちを掃除して一時的に肌を治しても、少なからず生存する微生物たちを完全に死滅させることは難しいということであった。例え治療時に繁殖している微生物を掃除しても、今度はそれを生き残った一部のもの達が大規模に繁殖してしまうため、完全に微生物を根絶するためには表面だけではなく、肌の根っこに住み着いた始めの微生物群を掃除しなければならず、そのために必要な手術は極めて大規模なものであり、かつそれでも再発の可能性を完全に拭えるものではないとのことであった。
その金額は天文学的なもので、田舎の一市民に過ぎない彼女には到底払えるような値段ではなく、彼女は絶望に打ちひしがれながら帰途に着くことになる。
現代[編集]
途方に暮れた彼女は、今も肌荒れをなんとかする方法を探し続けている。最近どうも一部の表皮生物が他生物を減らしてくれているので、ところどころ綺麗な肌が戻っているのが明るい材料だったが、この生物もその内にいなくなり、また荒れ果てた肌になるのもわかりきっている。彼女の思考は暗い。
未来[編集]
還暦を迎える頃には、恐らく肌はカサカサに乾いて小さきもの達も全滅してくれるかもしれないが、還暦を過ぎてから肌を気にするつもりは彼女にもない。ないが、せめてアラフィフの間くらいは若々しい肌を保っていたいというのも本音だ。彼女は今でも新たな美容法を模索し続けている。
関連項目[編集]
![]() 本項は第35回執筆コンテストに出品されました。
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流行記事大賞 大賞受賞記事
この記事は2016年流行記事大賞にて大賞を受賞しました。 |